コラム「その気にさせないで・・・」

ASES(総合防犯士会)広報部会副部会長
総合防犯設備士
ヒビキセキュリティ(株) 代表取締役 高尾祐之

AKB48のメンバーについて、その顔も名前もまったく覚えることができない。しかし、キャンディーズなら名前と顔は一致する。1970年代、ピンクレディと並びアイドルとして、テレビ画面をにぎやかにしていたグループだ。
数あるヒット曲のなかの「その気にさせないで」は、1975年に発表されている。

2011年5月12日。
立川市で、国内犯罪史上最高額、現金6億円強奪事件が発生した。日を追うごとに逮捕者がでている。同年10月21日には18人目の逮捕者がでた。被害にあった警備会社の元契約社員だという18人目のこの男が、内部の情報を漏らしていたらしい。
これまでに報道されている内部の情報を整理してみよう。

  1. 侵入されたトイレの窓は、半年以上前からカギが壊れていた。
  2. 実行犯は、警備員が仮眠する時間帯を狙い侵入した。
  3. その時間帯、警備員はひとりきりである。
  4. あの曜日のあの日には、現金6億円が金庫に保管されている。
  5. 金庫室あるいは金庫は、暗証番号の一致で開けることができる。
  6. その暗証番号は、仮眠中の警備員が知っている。
  7. その他、営業所の間取り。防犯カメラの位置。……

「えぇっ、ほんとかよ」
この情報を最初に聞いた主犯格の男が、そう言ったかどうかは定かではない。
しかし、これだけの情報を耳にした男がその気になったのは事実のようだ。この事件の場合、犯罪企図者にとってほぼ完璧に近い情報入手が、男たちをその気にさせたと言える。

2011年11月2日。
「コツコツ盗んだ500万円をタンス預金」(読売新聞WB)
札幌東署は、38歳無職男を窃盗容疑で逮捕。2005年1月から2011年7月に逮捕されるまで、札幌市や近郊のマンション、アパートに盗み入り、腕時計や現金などの盗みを繰り返していた。自宅を捜索したところ、盗みでためたとみられる現金500万円がタンスなどから見つかり押収した。同署は、計123件(総額981万円相当)の盗みを裏付け、送検した。(以上読売新聞WB記事より)

職業的にドロボウを繰り返している常習者は、下見、下調べに余念がない。なぜなら、彼らは捕まりたくないから。パっと盗って、パっと去りたいのだ。言葉を変えれば、侵入しやすく、逃げやすい。現場から逃げた後は、すっと何事もなかったかのように人波にまぎれこんでいける。そんな環境を好む。
一回の窃盗侵入で得る収入は、実は大した額ではない。はじめから期待はしていない。だから、彼らは数をこなさなくてはいけない。なぜなら、彼らにも生活があるから。
今日も彼らは、街を歩き回っている。その気にさせてくれる物件を求めて。

防犯対策は、被害を未然に防ぐこと、被害に遭わないようにすることが目的だ。そのために、犯罪企図者に犯行をあきらめさせるように仕向けること。犯罪企図者をその気にさせないこと。そんな環境をつくることが重要だ。
個人個人の対策も、各家庭の対策も、町内会も、企業も、基本的な考え方は同じだ。
キーワードは、その気にさせない。

その気になりそうだ。その気になった。その気にさせる。その気にさせないで。……
男と女の話なら、どっぷりとつかってみたくもなる「その気」だが、こと相手がドロボウの場合、しっかりとその気にさせない対策をとる必要があるのだ。
だから、ドロボウだけは「その気にさせないで…」